dreamlike occurrence.





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「今年の友樹のお誕生日さ〜外で過ごさない?」
前からおれの誕生会を開いてくれると聞かされていた。
しかし、いつも通り優ん家でメシ食わせてもらえるんだと思っていた。
それが・・・外で?何すんだ?

「外っていってもね、港の公園。ちょっといい場所見つけたんだ。そこにいろいろ持参してさ。たまにはいいでしょ?花火もできるし。あっ、もちろん全部こっちで用意するから友樹は来るだけでいいんだ」
何を想像しているのか、とても楽しそうに話す優にこっちまで楽しみになってくる。
優の笑顔ってそういう魅力があるんだ。

「いいよ、何でも。時間だけ教えてよ。あと場所とね」
優は紙に地図を書いてくれた。
時間は夜の7時。真夏だしまだ明るい時間だ。

「メンバーはいつもの四人だけど・・・いいよね?」
「もちろん。優の手料理を楽しみにしてるからさ」
港の近くの公園か・・・何ともロマンティックでなはいか!
しかも崎山も来てくれるという。
好きな人と一緒に18歳の誕生日を過ごせるなんて、考えただけでもドキドキものだ。

ちょっと素直になってみようかな・・・
いつも、キモチがバレないように、崎山の前では強がってみせていた。
けれど、少しでもチャンスがあるのなら、もし崎山に嫌われていないのなら、ほんの少し勇気を出すだけで、とんでもない幸せを得ることができるかもしれない。
「素敵な誕生日になるといいね」
天使のような笑顔に後押しされるように、おれはそう決めた。





おれは優と別れて、駅前のショッピングビルへと向かった。買いたい雑誌があったからだ。
いつもは家の近所の小さな本屋で済ませる用事なのに、この日に限って駅前の大型書店に行ったのは、おれの気紛れとしか言いようがない。
目当ての雑誌を購入した後、そこたま雑誌を立ち読みして、腹も空いたしそろそろ帰ろうかと駅に向かった時だった。
あれ・・・?
いつも呼び出されて付き合わされるスタバの、歩道に面した目立つ場所に、崎山を発見した。
普通なら声をかけようものだけれど・・・かけることができなかった。
崎山に連れがいたからだ。
しかも、その相手はこの街でも有名な、ぼっちゃん学校と呼ばれている私立高校の制服を着ていた。
相手がオンナならまだよかった。
崎山がゲイだというのなら、友達なんだろうと推測できるから。

しかし、悪いことにそいつはおれと同じくらいの年齢のオトコで、着こなすのが難しいと評判の、凝ったデザインの制服を違和感なく着こなしていて、遠目からでもわかる、かなりカワイイ系のヤツだった。
楽しげに談笑するふたりはあまりに親しげで、透明なバリアでも張られているかのように入り込めない雰囲気に包まれていた。
ふたりとも美形で、一緒にいるのがサマになっていて、通りすがりのオンナたちがチロチロ見ているのがわかった。

そいつに笑いかける崎山は、まるでおれの全然知らない人のようだった。
ただならぬ関係でないことは、遠目でも感じることができた。

あいつ、優みたいなのがタイプだって言ってたもんな・・・
その連れは、優には叶わないかもしれないが、それなりに対抗できるであろうきれいな顔の持ち主だった。
ふとした仕草や物腰には、粗雑さの欠片もなく、ふんわりマシュマロみたいに柔らかそうだった。

そう、あいつの好みにぴったりだったのだ!
おれとは全く正反対の・・・

それなのに、ちょっと優しくされて、いい気分にさせられて、ほんっとおれって単純バカだ。
意外にもショックなキモチはわいてこなかった。
何だかんだいいながらも、こういう場面を想像しないでもなかったから。

それよりも、変な期待を抱いた自分に堪らなく腹が立った。
何が素直になってみようだ!何が勇気を出してみようだ!
やっぱりおれは、あいつにとって、気を使わなくてもいい、便利なヤツだったに違いない。
それを勝手に勘違いして、好意だと少しでも期待した自分が情けない。
そんな簡単に幸せなんか手に入るものじゃないよな・・・
おれは、初めて見る優以外のヤツに向けられる崎山の笑顔に、思い切るように背を向けると、改札へと向かった。






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